分科会報告-② ICES2013

 2013年1月26-28日にかけて蔵王を会場に有機系太陽電池の計測及び評価国際会議 International Conference on the Evaluation & Standardization of Organic Solar Cells (ICES2013) を開催しました。海外はスイス・スペイン・アメリカ・スウェーデン・韓国・中国・台湾から9名の招待講演者を迎え、国内の招待講演者も含めて総計51名の参加を得ました。
 幸い天気にも恵まれ、冬シーズンのリゾート地ということもあって、かつ、ご出席頂いた皆様方の温かい御支援と御協力の下に無事淡々とスケジュール通り会議を終えることができました。改めて関係各者に感謝申し上げます。

 今回の会議では太陽電池分野の第一戦で活躍されている著名な先生方の出席を頂き、以下の3件の基調講演を頂きました。

(1)産総研太陽光発電センターの近藤道雄先生からは太陽光発電の普及拡大にはモジュール効率が12%以上必要である話や、そのための技術革新について概説頂き、材料の組み合わせに制約のない有機系太陽電池は有望である旨をお話頂きました。

(2)瀬川浩司先生からは色素増感太陽電池研究者の最近の関心事であるルテニウム錯体 Dye-X を始めとする最近の成果について御披露頂きました。

(3)グレッツェル先生からはサプライズとして新規なポルフィリン色素SM315を用いて色素増感太陽電池では初めて効率13%台を記録した話を御報告頂きました。色素は既知のYD2-o-C8を基本骨格としてドナーとアクセプター部位を改良したもので、波長感度域が(700nm→)800nmと長いのが特徴です。

 また本会議の主題でもあります有機系太陽電池の計測と標準化については以下の招待講演を頂きました。

(1)KASTの馬飼野信一講師からは色素増感太陽電池の性能評価に関する困難について問題を提起。具体的には電圧の掃引速度や掃引方向の違いによりI-V曲線が一致しなくなる話や、分光感度測定でIPCE曲線の形が照射光強度の違いによって変化する(非線形挙動を示す)話を頂きました。後者は有機薄膜太陽電池にも見られる現象です。

(2)SONYの志村重輔講師がこの問題を解決する一つの手段として新規なアルゴリズム法(Inversion Count Method)を提案。階段状に電圧を掃引し、かつ適宜保持時間を可変させることでヒステリシスの無いI-V測定ができることを披露頂きました。irregular stairs voltammetry (ISV)と命名。

(3)コニカミノルタオプティクスの西川宜弘講師(共同研究者の内田より発表)からはI-V測定を行う前提となるソーラーシミュレータの光量を定義する新しい手法を提案。即ち、これまで太陽光発電を支えてきたシリコン系は一次基準セル(primary cell)というのがあり、それを元にソーラーシミュレータの光量を決め、最終的に自分のセルは効率○%と値付けをしてきたわけですが、有機系太陽電池の場合は上述の通り材料の組み合わせが無限で、かつ次々と新しいものが開発されるため厳密には基準がないまま(通常はシリコン太陽電池を基準に)評価をしていることになります。この矛盾と問題点を解消すべく、新たに世界に先駆けて評価装置を開発しました。原理はドイツの認証機関PTBで考案された絶対分光感度法Differential Spectral Responsivity (DSR) methodを採用しました。実際の評価手順としては、IPCE測定と同じように波長毎の起電流を精密に積算して既知の数値データと照らし合わせることで基準となる光量を正確に見積もります。本システム、言い換えればバーチャルセル方式の特徴は有機系に限らずどのような分光感度を持つ太陽電池にも適用でき、また低照度での効率測定も可能です。

(4)インピーダンスの権威であるビスカート先生からは実際に有機系太陽電池が工業生産された際に、セルをオンラインで全量検査することを目指した高速EIS測定の紹介がありました。

(5)最後に先端研の松山外志郎講師からはIEC国際規格に向けた取組みを御紹介頂きました。現在太陽電池の認証規格は技術委員会TC82で詳細な取り決めがなされていますが、ここには後発の有機系太陽電池に関する知見は盛り込まれていません。一方、昨年来より積極的に活動を始めたTC113では太陽電池も含めたナノ材料デバイス全般の信頼性評価を議論していますが、技術内容の棲み分けと戦略をどうするべきか?という重要な課題を御提示頂きました。

 以上、私なりの解釈で認識に多少差があったかもしれませんが、内容をかいつまんで会議全体の報告をさせて頂きました。繰り返しになりますが、御協力頂きました皆様、本当にありがとうございました。

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