分科会報告-③ 第一回用途開拓シンポジウム

 本年2月21日(木)に有機系太陽電池技術研究組合(RATO)主催による「第一回用途開拓シンポジウム」が、東京大学先端科学技術研究センター産学連携新エネルギー研究施設内のENEOSホールで開催されました。冒頭の金川理事長の挨拶にもありました、「色素増感太陽電池や有機薄膜太陽電池のエネルギー変換効率が13%[注1]に迫ってきており、使途に応じた市場の創生も重要である」という言葉どおり、産業界も用途開発や商品化を意識し始め、ビジネスマンを中心に95名の参加がありました。

 本シンポジウムの企画意図は、RATO組合員の皆様に有機系太陽電池の用途開拓を促進される一助となるよう、各界の第一人者の講師をお招きし太陽電池の市場動向からデザインや応用商品、メガソーラーまで太陽電池を取り巻く幅広い話題をご提供いただく機会の提供であります。有機系太陽電池に関わられている皆様に、用途開拓のヒントやビジネスインスピレーションを得ていただくことを目的に開催されたものであります。また、研究者にこそ用途開発を意識した研究をしてもらいたいとの思いから、大学・公的研究機関の関係者には、RATOの関わりの有無によらず無料で聴講できるようにしました。開かれたRATOの活動を皆様に知っていただくため、門戸を開放し組合員以外の方々も参加できるようにもしました。講演の話題提供や講師選定は、事前に組合員の皆様からアンケートを募り、時間の関係と話題が重複しないよう配慮し4題とさせていただきました。

 第一話の「太陽電池の技術・市場動向と有機系太陽電池の生きる道」は日経BP社日経エレクトロニクス編集部でエネルギー関係・電池・先端技術等を取材されている野澤哲生先生にご講演いただきました。世界の太陽電池事情から日本における太陽電池設置の問題点や、ベンチャー企業の破綻とその理由についての解説がありました。有機系太陽電池については、現在の効率・寿命では用途が限られるなど辛口の意見もありましたが、一方で軽い・曲がるなど特長をいかし設置を含む総費用で活路を見出す事やプリンタブルな特長を生かし、小型軽量の複合デバイスを指向するのが望ましいという有機系太陽電池の立場に立った温かいアドバイスもありました。太陽電池の業界や市場を長年に渡って取材されているご経験から、ご講演は示唆に富んだ事例紹介が多く、聴講者からは、有機系太陽電池の立ち位置や研究開発方向について深く考えさせられたとの意見をいただいております。

 第二話の「太陽電池が描く未来世界~発想を広げて、花を咲かせる~」はソニー UX・商品戦略本部の木村奈月先生にご講演いただきました。木村先生は色素増感太陽電池関係者で知らない人はいない「Hana-Akari」のデザインを担当、ブレーンストーミングから始まったHana-Akariプロジェクトの「技術」と「デザイン」の文化の衝突から相互理解に至るまでの道程、開発の苦労話や達成感をサラリとご紹介いただきました。またライフスタイルや和の心・素材の持つ力をコンセプトに自然観や哲学を自己の感性で見える形にしていく未来感豊かな内容でした。講演後、技術者のアプローチとはまったく異なる方法論の聴講体験で感動したとの意見も多く寄せられました。

 第三話は「メガソーラー導入の動きと今後の展望」というタイトルでNTTファシリティーズ社メガソーラープロジェクト本部の小西博雄先生にご講演いただきました。講演では日本国内で大規模実証が行われている北海道稚内市と山梨県北杜市のメガソーラーを例示され、太陽光発電の系統連系の抱える課題とその対応策について具体的な事例を複数紹介いただきました。日本では太陽光発電の普及、特に非住宅比率を向上するには制度の変更が必要であると考えておられ、諸外国とは異なる独自の制度設定の重要性について述べられました。太陽電池普及にはパネルの価格や性能だけでなく、エネルギー政策に大きく依存するため官民の連携や協力が必要との事でした。有機系太陽電池に関わる聴講者の方々には、メガソーラーの設置例のほとんどを占めるシリコン太陽電池にも課題が多いことや初めて聞くスケールの大きなお話に圧倒された人も少なくなかったと思います。

 第四話は「エネルギーハーベストの動向と展望」でNTTデータ経営研究所社社会・環境戦略コンサルティング本部の竹内敬治先生にご講演いただきました。未利用のエネルギーを収穫(ハーベスト)して電力へ変換する技術と有機系太陽電池が親和性がある点や省電力の小型電子機器の自立電源への活用例として、国内では村田製作所の電池交換不要の無線スイッチとセンサの試作品例や海外ではフランスのSchneider Electronic社が発売を予定している室内用無線マルチセンサ(Solar Print社の色素増感太陽電池)を紹介いただきました。。また、近未来の展望として、Guardian AngelsとIndustrial Internetの欧州プロジェクト紹介もありました。前者は、光、振動、温度、電波からエネルギーを収穫すると共に、低消費電力技術と組み合わせることで、ゼロパワーを実現する構想であり、後者は、産業革命・インターネット革命に続く第三の波として位置づけられ、産業機械のインテリジェント化とネットワークのビッグデータとの連携で生産性の向上を目的に推進されているそうです。聴講者の方々から、有機系太陽電池のバラ色の将来を垣間見たと講演後のコメントをいただいております。
 シンポジウム終了後の講師の方々との意見交換会では、異例の60名を越える多数のご参加がありました。熱のこもったご講演と聴講者の皆様の真摯な受講姿勢が一体となった結果、多数の参加につながったと受け止めています。意見交換会では質問攻めにあう講師の方や名刺交換の名刺が不足される方も見受けられ、本シンポジウムは知識や情報の吸収だけでなく、人の輪づくりにも多少のお役になったかもしれません。聴講された皆様から、シンポジウム開催に対する過大な謝意をいただき、第二回目の開催を熱望するとの要請がありました。企画・開催担当としましては、心を強くした次第です。こうして第一回用途開拓シンポジウムも大盛況のうちに閉会となりましたが、流暢な司会を務めていただいた松本特任研究員(当時)、講演会場や意見交換会の手配や設営、予稿集の作成、受付や会場案内をしていただいた五井事務局長、上遠野様、鈴木様、宮木様はじめ瀬川研スタッフ皆様の多大なご尽力を頂きました。また、参加していただいた聴講者の皆様のご協力で無事終了することができました。末筆ながら感謝の意を表し、開催報告とさせていただきたいと思います。