【寄稿】有機太陽電池の国際標準策定が始まるにあたって

スマートソーラーインターナショナル 松山外志郎

スマートソーラーインターナショナル 松山外志郎

本年2012年10月、IEC(国際電気標準会議)にて有機太陽電池の標準策定作業が始まる見込みである。この機会をとらえてFIRSTとして、日本としての活動が具体化していくだろう。広く電気・電子業界では多くの場面で繰り返されている事柄ではあるものの、ここで一度、IEC対応の意味を整理してみたい。

  1. 日本が強い技術なのだから、日本リードで国際標準を作って基盤を強固にしよう
  2. シリコン太陽電池パネルの認証はIEC標準に依っている。何故今、有機太陽電池の国際標準が必要なのか

こうした極めて自然な声が出てくる背景のひとつに、太陽電池産業のどの部分に関与しているかに依って人の理解に大きな幅があるという実際がある。
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太陽エネルギーの化学的変換貯蔵国際会議(IPS-19)報告

DSC・OPVの分子界面構造と電気伝導性に関する研究レポート
大阪大学名誉教授・RATO理事 柳田 祥三

IPS-19会議
IPS-19会議

IPS-19会議は、太陽光とCO2とH2Oからメタノール等の燃料を合成する研究を継続しているカリホルニア工科大学(CALTEC)のMichael Hoffmann教授が組織委員長となり、本年7月30日から5日間、CALTECで開催された。色素増感太陽電池(DSC)、ポリマー太陽電池(OPV)関係のプレナリー講演は、Michael Graetzel (Water splitting & DSC)、Andrea Hagfeldt (DSC)、Alan J. Heeger (OPV),Tobin Marks (Photoactive materials) 、Prachant Kamat (Q-dot PV)による5件、口頭発表も全セッションの約1/4、11セッションで75件であった。ポスター発表件数は全ポスター発表件数の約半数の142件あり、会議の後半Beckman Auditorium前の屋外広場で行われた(写真)。DSC・OPVの今後の研究・開発に寄与すると思われる分子界面構造と電気伝導性に関する5件の研究を報告する。
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有機系太陽電池技術研究組合(RATO) 発足記念シンポジウム

会場風景(東大先端研ENEOSホール)
会場風景(東大先端研ENEOSホール)

 2012年6月19日(火)東京大学先端科学技術研究センター環境エネルギー研究棟ENEOSホールにて、有機系太陽電池技術研究組合(RATO)発足記念シンポジウムを開催した。今回のシンポジウムには産官学の55機関から115名の参加があった。
 開会にあたり、金川哲夫RATO理事長より、「日本が世界に先駆けて有機系太陽電池の商品開発を加速するためには、RATOの役割が重要であり、多くの組合員の協力が必要である」と挨拶があった。次に経済産業省資源エネルギー庁元長官の石田徹様より、「太陽光発電の普及拡大に向けて、新しい分野として有機系太陽電池の早期実用化を期待している」と祝辞が述べられた。
 続いて基調講演にうつり、太陽光発電技術研究組合(PVTEC)桑野幸徳理事長、および、産業技術総合研究所太陽光発電工学研究センター近藤道雄センター長からご講演があった。最後に東京大学先端科学技術研究センター教授の瀬川浩司RATO理事から、有機系太陽電池の現状とRATO設立の意義や役割、今後の取り組みなどについての紹介があった。閉会後、希望者による色素増感太陽電池のミニパイロットライン(環境エネルギー研究棟瀬川研究室内)の見学会が行われ、その後意見交換会が開催された。
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■理事長ご挨拶

RATO理事長 金川哲夫
RATO理事長 金川哲夫

 今世紀に入ってから日本の製造業は危機状態に有ります。中国、韓国、台湾などの経済成長に比べて日本は不振が続いています。半導体、パソコン、液晶パネル、携帯電話などいずれも苦しい状況にあります。かつては世界を席巻した「メイド・イン・ジャパン」のブランドは、現在日本の国内でしか通用しないローカルなブランドに変わっています。
 このような状況を招いた要因はいろいろ有りますが、企業が制御しがたい要因として国の政策や円高があります。一方、企業が統制できる要因もあります。一つは技術流出を防ぐ方策と、もう一つは1企業が一貫して開発・企業化し世界を相手にしてきた考え方で、21世紀の現代では通用しなくなったことにあります。

 このような窮迫した状況を切り抜けた実例が16世紀・戦国時代の日本で行われた「毛利元就の3本の矢の教え」ではないかと思います。実際に毛利家は19世紀末廃藩置県までの300年にわたって中国地方の雄藩として存続しました。この教えは、個々の企業単独では押し潰される相手に対しても、個々の企業がお互いを信じて手を結べば世界を相手に戦えると謂うことです。つまり有機太陽電池はDSCにせよOPVにせよ、1企業でもって開発・企業化するのではなく、最初からオールジャパンの体制で智恵を集め世界を相手にするのが堅実な方針で将来的にメリットが生じると思います。「言うは易く行うは難し」と言いますが、オールジャパン体制を実現するにはまず知財の壁が立ちはだかって来るのが目に見えています。ここで知恵を絞り「小異を捨てて大同団結」しなければ有機太陽電池の将来に明かりは見えてこないと思います。

 更に有機太陽電池を世の中に普及させるためには少なくとも変換効率がモジュールで10%以上・耐久年数10年は保たないと商品にならないと思います。セルでは10%を超えていますがモジューになると未だ10%を超えていません。商品化迄にはもう一つ二つ大きなブレークスルーが必用です。性能向上の方はFIRSTで頑張って頂き、ここ2,3年の内に商品化の目途が立ち再生可能エネルギーとしてカウントされる存在にならないと有機太陽電池まで中国・韓国の後塵を被ることになり兼ねません。
 将来的には世界が真似のできないかつ市場で価格競争に巻き込まれない独自の品質を持った有機太陽電池を育て上げる予定です。今後ともRATOにご支援を賜りますようお願い致します。