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- RATO News vol.02
分科会報告-① 材料・セル・製造プロセスの開発設計分科会 有機系太陽電池ワークショップ ~酸化チタンの基礎化学と応用~
文:久保 貴哉(東京大学先端科学技術研究センター 附属産学連携新エネルギー研究施設 特任教授)
有機系太陽電池技術研究組合(RATO)では、有機系太陽電池を構成する様々な材料の基礎と応用、さらには太陽電池評価技術など有機系太陽電池の研究開発を進める上で有益な科学技術について幅広く解説する講習会として、「有機系太陽電池ワークショップ」を開催しています。第1回は材料セル・製造プロセスの開発設計分科会が中心となり、色素増感太陽電池や有機無機ハイブリッド太陽電池の高性能化において、重要な構成素材の一つである酸化チタンを取り上げ、2012年12月12日(水)に東京大学駒場リサーチキャンパス(ENEOSホール)にて、ワークショップ―酸化チタンの基礎化学と応用―を開催しました。本ワークショップには、RATO組合員から約30名、大学院生など非組合員からも多くの受講を頂きました。なお、「最先端研究開発支援プログラム(FIRST)-低炭素社会に資する有機系太陽電池の開発」との共催により実施しました。
本ワークショップは、金川哲夫RATO理事長(当時)より、太陽電池の研究開発を取り巻く環境や、有機系太陽電池の実用化の重要性などの開会挨拶に引き続き、酸化チタンの基礎科学と応用について、第一線でご活躍の先生方に講義をして頂きました。
理論計算化学による酸化チタンの基礎科学…東京大学 山下晃一先生
酸化チタンの基礎物性と機能性………………北海道大学 大谷文章先生
酸化チタン表面特性と塗布技術………………御国色素 瓦家正英先生
酸化チタンの光機能デバイスへの応用………東京大学 内田聡先生
「理論計算化学による酸化チタンの基礎科学」では、ナノサイズの粒子状や薄膜状の酸化チタンの基底および励起状態での電子状態を中心に、電子伝導性と反応性に関する理論計算化学についての、講義が行われました。新しいタイプの有機系太陽電池の一つである界面錯体型太陽電池に用いられる、有機分子が酸化チタン表面と反応してつくる界面錯体の構造や光物性についての研究事例紹介もあり、有機系太陽電池の研究開発おける理論計算化学の有用性が示されました。
「酸化チタンの基礎物性と機能性」では、さまざまな分野で機能性材料として利用されている酸化チタンの組成,結晶構造,表面構造,二次粒子の形成などの構造特性と光吸収・散乱や表面での吸着,光励起状態とその失活などの物性について講義が行われました。酸化チタンの光触媒性能と結晶面などの基礎物性との関係についての豊富な実験データは、有機系太陽電池の高性能化研究を行うときの重要な知見となるものでした。
「酸化チタンの表面特性と塗布技術」では、有機系太陽電池の作製技術に関わる実践的な内容を多く含む講義が行われました。色素増感太陽電池の光電極に使われる酸化チタンメソ多孔体を印刷法で作製するために重要な、印刷性と電極機能を両立した酸化チタンペーストの調製に必要な顔料分散や塗装技術についての講義が行われました。さらに、塗料用酸化チタンの表面処理による半導体特性への影響などについて、太陽電池用酸化チタンの開発に役立つトピックスについても詳しく説明が加えられました。
「酸化チタンの光機能デバイスへの応用」では、色素増感太陽電池を中心に、酸化チタンナノ粒子の光機能デバイスへの応用について講義が行われました。講義の前半では、理論計算の結果を利用しつつ、結晶相や結晶性の異なる酸化チタンのバンド構造や電子伝導性などの基礎的な半導体物性について解説が加えました。講義の後半では、色素増感太陽電池の高性能化や高耐久化に向けて、基礎研究から実践的なフィールド試験まで幅広く進展している研究開発状況について、詳細な講義が行われました。また、東京大学先端科学技術研究センター環境エネルギー棟6階瀬川研究室内におかれている色素増感太陽電池の製造パイロットラインの現状について動画を交えながら紹介がありました。
ワークショップ終了後に、講師と30名程度の聴講された方々に参加を頂き意見交換会を実施しました。講義に関する質疑の続きや発展させた質問など講義内容の理解を深めるディスカッションが行われました。さらに、意見交換会は、様々な業種から構成されるRATO組合員同士の横のつながりを強める機会にもして頂くことができました。