寄稿-① EU PVSEC 2012 を訪問して

 昨年9月25日から10月1日の間、松山外志郎氏(東京大学先端研)とDSCの国際標準化の動向を探るため欧州各国を訪問した。その際、ドイツ国、フランクフルト市で開催中のEU PVSEC 2012に参加した。旅程の都合でこの国際会議には出席できず、併設の太陽電池国際展示会を1日だけ見学した。従って、「EU PVSEC 2012を訪問して」と表題をつけたが、DSC国際標準化の動向についても報告する。

写真(1) EU PVSEC 2012 会場内昼食風景
写真(1) EU PVSEC 2012 会場内昼食風景

 フランクフルト到着後、翌日、今回の主要訪問先であるIEC, TC113委員会幹事のProf. N.Fabricius (Karlsruher Inst. Tech., Germany)と面談し、IEC, TC113委員会にPWI(予備業務項目)として提出された“Reliability Assessment of Nano-Enabled Photovoltaics“について議論した。ここでの会見で、同氏からは、NanoEnabledPhotovoltaicsには、全ゆるナノ構造有機系太陽電池が含まれる事が示された。また、TC82とTC113との差別化は、前者がSi系を中心に全太陽電池の国際標準に対応しているのに対して、後者では電子デバイスの主要構成部分であるナノオーダー構造要素の性能・耐久性評価・標準化を取り扱う。換言すれば、前者はデバイスで纏めるのに対して後者は分野を越えたナノ技術という切り口で纏めたものである。このため、TC113では、製品認証までは行わないとDr. Fabriciusは明言した。

 26日午後は、EU-PVSEC併催の展示会に参加した。 展示会のみ1日入場券であり、入場料は格安であった。会場はそれなりに盛況だったが、経済環境悪化の影響で出展予定企業の6割が辞退したと説明されていた。展示会は、2階建ての展示場で2フロアを用いて開催されていた。日本の展示会と異なり、細かいカテゴリ毎に分類されず、1階フロアと2階フロアにどのような企業が展示しているのか分かり難くかった。
 有機系太陽電池の著名な企業であるSolaronix、G24i、Dyesol等の展示はなかったが、フラウンホーファー(DSC)、Heliatek(OPV、青-緑タンデムでφ125mm6%超)、Coatema(OPV)が出展していた。ただしフラウンホーファーは研究機関、Coatemaはプリント装置の会社であり、展示会全体として有機系太陽電池の実用製品の展示はなかった。日系の企業としては、ソニー、島津、浜松ホトニクス、SMC(真空機械等のメーカ)コニカミノルタグループ等があった。

写真(2) IEC 中央事務局でBarta 氏と会談
写真(2) IEC 中央事務局でBarta 氏と会談

 第3日目午前中は、ジュネーブ市(スイス)のIEC中央事務局を訪問した。松山氏の旧友である本事務局職員G.Barta氏を表敬訪問した。一般的な会話であったが、その中で同氏は、一つの技術がIECの場に出てきた際の関係/競合技術との折り合いについて一般論を用いて説明していた。TCの運営についてもいろいろな異論が出る場合、これを国際のTC会議で議論するには、時間的制約も含めてなかなか議論が煮詰まらない。このような場合、論点を充分整理する議論を前もって各国が国内で行い、その上で国際の議論とする事が重要である。これでも問題が収まらない場合には、中央事務局はアドバイスをするが方向付けには関与しない。問題が大きくなれば、TC間の課題を討議するSMB(Standardization Management Board、標準管理評議会)にて議論される事になる事などを指摘していた。

写真(3) Solaronix でMeyer 氏と会談
写真(3) Solaronix でMeyer 氏と会談

 同日、午後、DSCメーカーのDr. Toby Meyer(Solaronix , Aubonne in Switzerland)氏を訪問した。 TC113に今回の有機太陽電池の信頼性に関するPWIが提出されていることはマイヤー氏にとって初耳のようだった。同氏によると、欧州域内では OPV という言葉は、薄膜型とDSC の双方を含むという理解ができているとの事であった。今回のPWI提案については、スイスがTC113のメンバー国でなく、スイスからの参加がない場合でもDSC関係者に働きかけたいと思っていると語った。その他、Solaronixでは、今年度末完成のEcole Polytechnique Federale de Lausanne(EPFL)キャンパスの新築建物の側全面への当該社製DSCパネル設置を設置する計画を示した(建物壁一面の装着でかなりの面積であった)。

写真(4) Fraunhofer 研究所にて、左から青木氏、Dr.
Weurman 氏、松山氏、Dr. Hinsh 氏(撮影者:筆者)
写真(4) Fraunhofer 研究所にて、
左から青木氏、Dr.Weurman 氏、松山氏、
Dr. Hinsh 氏(撮影者:筆者)

 翌日、第4日目は、ドイツ、フライブルグ市にあるFraunhofer研究所を訪問した。予め、Dr. Hinschに面会を申し込み、所内見学とDSCの評価・標準化に関して面談を希望する旨、連絡しておいた。訪問したのは筆者の他に、KAST研究員の青木(智)氏と松山氏が同行した。当該研究所からはDr. Hinsh氏とDr. Weurman氏(写真参照)が対応した。所内見学を受けた後、青木氏から、パソコン画面を見ながらKAST概要、FIRSTの概要、現在のDSC評価法に関して進捗状況などを説明した。特に、光電変換応答速度時定数が大きなDSCの場合、I-V測定において、電圧印加の掃引を正・逆方向の曲線が一致するまでに要する時間の長さが議論となった。DSCのI-V測定については測定方向について差が出るので、Si系との違いをコメントした。また筆者より、DSCの耐久性評価のデータについて補足説明した。なお、前述の見学コースには、研究所が特許を有する燃料電池、コンバータ、集光型太陽電池用のレンズ、有機薄膜太陽電池のサンプル、太陽電池を用いた建物の冷却システムの模型、長期間使用後の多結晶太陽電池モジュール等が陳列されており、親切な説明を受けた。